あ
今は誰ひとり
立ち入らないこの場所に
一枚の砕け散った鏡がある
まだ破片が辺りに残るけど
思いきってその近くに踏み出すと
靴の下で静かに砕ける音がした
君の心の音がした
自分の座っていた椅子を
この鏡に投げつけた君は
今 抜け殻となって
どうやって生きているのだろう
今聞きたい
君も同じように
傷ついたりしたのだろうか
それともまるで
何事もなかったかのように
日常を送るのだろうか
正常じゃないことが確かなら
理由が涙か孤独かなんて
そんな物は関係がない
自分の心はおろか
人の心なんて知る由もないけど
泣いて暮らせばいい
君がその手でつかんだ結論が
悲しみで狂うことだったのなら
その選択を誰も退ける事ができないのなら
見届けるしかない
激昂によって割れた鏡は痛々しく
きらきら月光に照らされていた
数千年前のその出来事を追憶するように
でも 今じゃそれは
墓碑を指でなぞる事と
同じくらいに虚しいこと
無音の中で絶唱するように
堰を切って泣く君の
ひざを折る後ろ姿は
誰の心にも刻まれる事なく
歴史の一ページを静かにめくった